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三間つゞきの奥座敷では蝋燭だの燈芯の明りで照し出された仏壇を前に、来客達が思ひ思ひの所にかたまつて坐つていた。
「畜生、おぼえていろ。」
練吉はさういふ今泉の足もとを見、更にじろりと皺一つよらない衣裳を見上げた。何か疳にさはつたやうな色が動いた。そして、一言できゆつと相手をへこまさうとする時のやうに、神経的に口を曲げ、今にも云ひ出さうとした時、少し離れたところから手招きしている房一と小谷とに気づいて、そのままそつちへ行つてしまつた。
「何しに来た!」
浴客同士のあいだに親しみがあると共に、また相当の遠慮も生じて来て、となりの座敷には病人がいるとか、隣の客は勉強しているとか思えば、あまりに酒を飲んで騒いだり、夜ふけまで碁を打ったりすることは先ず遠慮するようにもなる。おたがいの遠慮――この美徳はたしかに昔の人に多かったが、殊ことに前にいったような事情から、むかしの浴客同士のあいだには遠慮が多く、今日のような傍若無人の客は少かった。
「お礼ですか」
「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。
「どれ一つ診ませうかな。――ふうむ、これあどうしたのかね、ハッパでやられたのか」
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。
「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」
とてもそんなことは!といふ風に房一は答へた。
「どうでせう。いつそあの障子も脇戸もとり払つて、曇り硝子に高間医院といふ字を抜きましてね、厚い二枚戸でも入れたら――」